『マイルーム』に戻ってきて、ソファの上に座って、ふぅ、と大きく息を吐いた。
隣に座ったフェイトと、向かいに座ったアルトリアとなのはが、それぞれ「お疲れ様」と声を掛けてくれる。
あの後……なのはのスターライトブレイカーの余波が収まり、周囲に静寂が戻ったところで、広場の中央──遺跡のあった場所が輝き、転移陣が現れて、それを使って戻って来たわけなんだけど、その前に軽く話した稲葉さん達は、どうやらクルルカント戦で動けなかったことを悔やんでいるみたいで、随分と気落ちした様子だった。
とは言え心が折れている様子はなく「もっと強くならないとな」と決意を固めていたのには、強いなと思う次第だけど。
ちなみに瑞希は、あの時フェイトへ向かっていたクルルカントを止めた攻撃に対してフェイトに礼を言われて、「私に出来ることをしただけだから」と淡々と返しつつも、どことなく嬉しそうだったのは印象深い。
それから助けた双子らしき──と言うか、確認したら本当に双子の兄妹だった──子達と、ハルカとケイから改めてお礼を言われて、念のためにそれぞれと連絡用に、端末のIDを交換しておいた。
ちなみに双子の男の子の方は
豊、女の子の方は
泉と言う名前だそうだ。
そして『マイルーム』に戻ってきて、今に至る……わけなのだが、
「……っ」
軽く目をつぶったところで、戦闘の高揚感と言うか、『戦場の心得』のスキル効果が切れたのか、目の前で見たクルルカントにグレイが喰われた光景がフラッシュバックのように思い浮かび、思わず息が詰まる。
目の前で人が死んだ。それも、あんな形で。
俺ですらこんなにクルものがあるのだ。グレイ達と付き合いの深かったあの二人──ハルカとケイの受けた傷は、どれほどのものになると言うのか。
その二人は別れ際に、今後どうするかは落ち着いてから考えると言っていた。……まぁ、二人の立場を考えれば無理も無いだろうけど。一方で双子──豊と泉は“喉もと過ぎれば”と言うやつだろうか、思ったより元気そうだったんだけどな。
そんなことを考えていると何とか気持ちも落ち着き、伏せていた目を開けると、視界に飛び込んでくるのは心配そうな顔が三つ。
皆に「大丈夫。心配してくれてありがとう」と言ってから、それぞれに飲み物を淹れて、一息入れて気持ちを切り替える。
ちなみにフェイトとなのはは既にバリアジャケットを解いているし、アルトリアも鎧を消した状態だ。そんな三人がこうして揃って座ってるところを見ると、何とも華やかで、不思議な感覚を覚えた。
さて、それじゃあ色々と説明と確認をしないとな……と言うわけで、まずはフェイトとなのはに、今回二人を召喚するに至った経緯を説明する。
遺跡に向かう途中で稲葉さん達とグレイ達の一行と合流したこと。
遺跡のある広場で多数のオークを確認して、そのオーク達に囚われた双子を見つけたこと。
その二人を助けるために、皆でオーク達に戦いを挑んだこと。
双子を無事に救出した直後に、遺跡に落ちた“黒い”雷。
遺跡の中から現れた、クルルカントと、それに食い殺されたグレイ。
ハルカとケイは何とか助けられて、アルトリアがクルルカントを食い止めている間に、森へと避難させたこと。
そして、アルトリアに加勢しようとしたところで、不意に脳裏に奔った“力”の使い方。
「……で、その時使えるようになった『
二重召喚』で二人を呼び出したってわけだ」
順を追って説明し終えたところで、フェイトは「そっか」と頷くと、俺の手を取って優しく微笑んだ。
「だから葉月は……さっきあんなに辛そうにしてたんだね」
そう言ったフェイトの表情は、逆にこちらの方が心配してしまいそうな程に辛そうで……俺の心を慮ってくれるその想いが、とても嬉しかった。
正面に座ったなのはは、身を乗り出して「私も力になりたいから、いっぱい頼ってくださいね」と。アルトリアも「勿論、私もですよ」なんて言ってくれて。
……本当に、俺は周りの人に恵まれていると、心から思う。
改めて三人に礼を言って、もう一度気を取り直して、今度は今回の戦いで増えた【スキル】等の確認をする。
今の一連の流れから話を変えるのは、何ともよそよそしいと言うか、気恥ずかしいと言うかだけれど、俺にとって自身の能力の把握は必須なことなので、それはそれである。
「えっと……それじゃあ、今回増えた力だけど」
そう前置きし、ステータスウィンドウを呼び出し、【スキル】等の一覧を眺めて──「マジか」と思わず声が出た。
「どうしました?」と訊いてくるアルトリア。俺はそれに対し、増えた能力を説明することで答えていく。
まず、【称号】の『
竜殺し』と『討伐者・轟く狂嵐』。これはクルルカントを倒したことによるものだろうからこれはいい。
次に『繋ぐもの』。これは……どうなんだろうか。説明にある『“繋がり”を持つ者』って言うのは、恐らくフェイト達のことだと思う。それを考えると、これも『召喚師』の力と言えるんだろう。
そしてレベルアップした【ユニークスキル】。これも、『二重召喚』が使えるようになった時点で予想はしていたことだ。
俺が思わず声を漏らしてしまった原因は、次にある。
「……『十六夜咲夜』と、新たな【ユニークスキル】……『絆を結ぶ程度の能力』か」
「なんだか、変わった名前の能力だね」
フェイトの言葉に苦笑が浮かぶ。
俺もこの“程度の能力”の名前を初めて見たときは、変な言い回しの名前だなって思ったものだ。
フェイトに「そうだな」と返すと、今度はアルトリアから「どのような能力なのですか?」との問い。
俺はもう一度ステータスウィンドウへと視線を走らせた後、頭を振って答える。
「
unknownだってさ」
「多分『十六夜咲夜』を召喚したら、ある程度の詳細は出ると思う」と続けると、「どういうこと?」と首を傾げるフェイト。
なのはとアルトリアも理由を聞きたがっているようなので、「彼女の世界に由来する能力だからね」と答えると、なるほどと頷く三人。もっとも、実際に召喚してみないと解らないし、スキルの制限的にも明日にならないと召喚できないから、どちらにしても詳細が解るのは明日以降なんだけど。
とりあえずスキル等の確認はこの辺りにして、次に移ろうと思う。
三人へ「ところでコレなんだけど」と言いつつ、クリムゾン・エッジを取り出してテーブルの上に置くと、アルトリアが「これは……」と難しい顔をしながら手に取り、眺める。その刀身には、大きなヒビが入っていて、お世辞にも使い続けられるとは言えない状態だった。
「さっきのドラゴンで?」
「これは……折れなかっただけマシ、と言う感じですね」
「……それで、どうするの?」
なのは、アルトリア、フェイトと言葉を続けられ、「ちょっと試したいことがあるんだ」と答える。
……先ほど稲葉さん達と話した際、瑞希があの時放った矢が普通とは違う感じがしたので、その旨を訊いて見たのだ。で、返って来た答えは「合成した」だったわけで。……そう、合成。前に一度試してみてから、結局触らずにいた機能である。
それで、合成と聞いて、前に一度試したけど失敗したんだと答えた際、瑞希から
ある物のことを教えてもらった。
「ある物……って?」
小首を傾げるフェイト。
俺は三人に「ちょっと待ってて」と断り、端末へ向かって操作する。
行うのは『ショップ』からの『購入』。そして購入したそれをアイテムボックスから取り出し、皆のところへ戻ってテーブルの上に置いた。
黒い表紙に淡い銀色で魔法陣が描かれた、一冊の本である。
「これは?」
「『錬金術師の心得』ってアイテム。効果は、合成の成否の判定……って言ってたかな」
「合成……そっか」
その説明で、フェイトは俺が何をしようとしているのか解ったのだろう。
なのはとアルトリアに「違うアイテム同士を掛け合わせて、新しい物をつくる機能だよ」と伝えると、二人はなるほどと納得した。
「あの、葉月さん。折角だからやってみませんか?」
「私も実際にやってるところは見たことないし、賛成かな」
なのはの提案にフェイトが同意して、アルトリアも「そうですね」と頷く。
それならと言う事で、クリムゾン・エッジと錬金術師の心得をそれぞれアイテムボックスへとしまい、三人と共に端末へと移動し、実際にやってみることにした。
失敗することに不安が無いとは言わないが、このままではこの剣は使い物にならないのは確実だからなぁ……。
端末の前に移動し、展開されたウィンドウの中から【アイテムボックス】、【合成】と選ぶ。
次いで基本となるアイテム──クリムゾン・エッジ──を選び、そこで前回やってみた時には無かったはずの『補助アイテム』と言う項目を見つけた。まぁ、間違いなく先ほど入れた『錬金術師の心得』だろう……と思いつつ実際に『補助アイテム』欄を見てみると、やはりと言うかそれだった。
そんなわけで、補助アイテムとして『錬金術師の心得』を選んぶと、この時点で左手にあるアイテムボックスの上に、光を発していない暗い魔法陣と、そのそらに上にクリムゾン・エッジが現れた。
前回は全て決定した後に魔法陣と合成するアイテムが現れたのだが、これが『錬金術師の心得』による補助効果らしい。
つまり、ここから更に素材アイテムを選んでいくと、その素材アイテムによる合成が上手くいく場合、魔法陣が光を発して教えてくれるのだという。
手探りでやるより遥かに便利なんだけど、その分このアイテム、入手するために支払う魔力量が高いのだ。当たり前といえば当たり前なんだけど。
そんなことを説明しながら端末を操作していると、なのはが「何だかゲームみたいですね」と感想を漏らした。それに関しては大いに同意である。
さて、それじゃあ続きだ。
次は合成素材にするアイテムを選んでいくんだけど、『錬金術師の心得』によって成否が解るので、とりあえず自分の手持ちでこれだ、と思うものを選んでみることにする。
この合成によってクリムゾン・エッジが上手く変化すれば、その武器は俺のメイン武器になると思う。だからこそ、候補としては他にいくつか有るけど──やはり俺としては、最初に成功させるのは
これで行きたい。
「……あ、葉月、あれって……」
「うん。フェイトに創ってもらったやつだよ」
端末上で選択したことによって、アイテムボックスの上に展開されている合成用魔法陣の上に出現した、そのアイテムを見たフェイトが声を上げた。
そう、俺が選んだのは『
核の水晶・轟雷』。フェイトに魔力を篭めてもらって創った素材アイテムだ。
一つでは魔法陣にまだ変化は起きていない。なので更に追加していくと、三つ目で魔法陣が淡く光だした。
よし、更に……と思ったけれど、『核の水晶・轟雷』がもう無かった。まぁ、魔力を篭める前の『核の水晶』であればまだあるので、念のため十個ほど取り出す。
「ごめん、フェイト。前と同じようにお願いしてもいいかな?」
「うん、任せて。……バルディッシュ」
《Yes sir...Divide Energy》
フェイトに頼むと、直ぐにディバイドエナジーで魔力を篭めてくれた。
「ありがとう」とお礼を言いつつ受け取り、アイテムボックスへ仕舞って、素材アイテムとして追加する。
四つ目、五つ目と選んだところで、魔法陣の輝きが一際強くなった。試しに六つ目を追加すると、その光は急速に消えて暗くなる。恐らく六個は剣の方が耐えられないと言うことだろう。
なので、『核の水晶・轟雷』を五つにして──とそこで、そういえばワンランク低いのも創ってもらっていたなと思い出して、それ──『核の水晶・雷鳴』──を追加してみると、魔法陣の輝きは変わらない。……折角だからこれで行ってみようか。
「それじゃあ、やるよ」と声を掛けると、「上手くいくといいね」とフェイト、「どんなのが出来るのかな」となのは、「確りと願えば、きっと剣が応えてくれるでしょう」とアルトリアが答える。
俺はその言葉に頷いて、魔法陣の上に存在するクリムゾン・エッジへ「また、俺に力を貸してくれ」と声を掛け、合成を開始した。
合成用魔法陣が光を更なる光を発し、その中心に置かれたクリムゾン・エッジの周囲に配置された『核の水晶・轟雷』と『核の水晶・雷鳴』が、金の粒子となってクリムゾン・エッジへ溶けるように流れ込んでいく。
粒子が流れ込むにつれ、クリムゾン・エッジそのものが光出し、全ての粒子が入ったところで、魔法陣とともにクリムゾン・エッジがアイテムボックスの中へと消えていった。
改めて端末を見ると「合成に成功しました!」の文字。
三人に「成功したよ」と伝えながら、アイテムボックスからそれを取り出し、鞘から抜き放つ。
大まかな形状は変わらないけれど、柄の部分に金色の宝玉が填まっており、色合いが真紅から蒼銀へと、ガラリと変わっていた。
けれど、一番の特徴は色の変化ではないだろう。
三人から少し離れ、手にした剣を軽く振るうと、バリッと言う音と共に、紫電が奔る。
──そう、この剣は、刀身に雷光を纏っていたのだ。
「魔法の剣って感じですね」
なのはの言う通り、いかにも“魔法剣”と言った雰囲気で格好良い。
アルトリアには「剣が応えてくれたようですね」と言われ、「うん、良かったよ」と同意したところで、フェイトに「その剣の名前って、何て言うの?」と問われた。
剣の名前ならば、アイテムボックス内で表示されているので解っているけど、どうせなら詳しい情報をみてみようと『アナライズ』を使用する。
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名前:ライトニング・エッジ
カテゴリ:武器/剣/片手/ユニーク
入手方法:合成・特殊
「雷神の加護を受けた雷鳴の剣。されどその力は未だ満ちず。求むるは尽きぬ想い。願うは光の心と闇の意志」
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……それによって解ったこと。
この剣がどれほどの力を秘めているかはまだ解らないけれど──この剣には、まだ“先”がある。
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- 2015/04/07(火) 02:58:31|
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